ビタミン ・ ミネラル 不足がおきる理由 を紹介したいと思います。「時代はこんなに便利になったのに病気が増えてしまうのはなぜ」では、潜在的欠乏症が増えたり、由々しき重大事になっていることがわかりましたが、理由はだいたいつぎのようなことが考えられます。
- 食事の内容的なバランスの悪さ
- 食品をきれいにし過ぎる
- 体内のビタミン、ミネラルなどを食い荒らす要因の増加
- 食品そのものを劣化させる現代の農業
1.食事の内容的なバランスの悪さ
脂肪や動物性蛋白質が増え、でんぶん質が減ったのが日本を含めた先進各国での食生活の内容的変化の特徴でした。また、同じでんぶん質でも穀類や野菜といった自然な食品でとるでんぶん質を減らし、砂糖を増やしたことが繊維摂取量を激減させました。
そしてこういう変化は実はビタミンやミネラルという微量栄養素の不足も起こすものです。化学薬品みたいな砂糖の中には微量栄養素はゼロです。だから微量栄養素のあるものを減らして砂糖を増やせば、これだけでもビタミン、ミネラル不足になります。
つぎの2つの提言はいまのような食生活の欠陥を端的に指摘し、その対策を示したものです。
- 「砂糖の消費を減らして微量栄養素源である野菜や果物をもっと摂りましょう」
- 「緑草色野菜、豆類をいまの2倍とりましょう、果物は 50 % 増やしましょう、根菜類はいまの 2 倍にし、じやがいもは 25 % 増やしましょう、油脂類は 25 % 減らし。砂糖、菓子類、清涼飲料は 25 % 減らしましょう」
砂糖などはゼロにしたっていいし、そのほうがよりべターだと思うが、現実にはそうもいかないので 2 つの提言は達成可能な目標としていまのようにいっています。
20 世紀初頭、私たちはでんぶん質はほとんど穀類、野菜、果物でとっていました。しかしいまは、総量でカロリーの44% になるでんぶん質のうち、24 % は砂糖でとっているのです。これは国民の健康のうえで重大なダメージを与えています。この砂糖は、あらゆる食品に含まれています。旨味として「おいしさ」に欠かせないものとなっています。
いまカロリーの 60 % を脂肪と砂糖でとっています。しかし今世紀初めは、この脂肪と砂糖でとるカロリーは 30 % 以下でした。この変化はミネラルやビタミンの摂取を低下させるものになりました。
今日の食生活は、カロリーの割に基本栄養素の少ない食生活になっています。同じ変化が日本ではもっと短期間に起きて現在に至っています。
脂肪も急増したし、砂糖は敗戦直後に比べれば数100倍だし、昭和30年代に比べても何倍にも増えています。
自分はそんなに砂糖を口にしていないという人のために、アメリカ人だってまさかカロリーの24 % もの砂糖をなめているわけではありません。しかし大部分の砂糖は「見えない砂糖」としてとっている(あるいは「とらされている」という表現が正しいのかもしれません。
知らず知らずのうちに摂取してしまっているのです。中年以上の人なら、20 年ぐらい前から佃煮でも何でも市販の総菜などの味付けがますます甘くなってきたのに気づいているはずです。
社会全体が年々「甘く」なってきているので、われわれは味付けのかげにかくれた「見えない砂糖」を知らぬ間にかつての何倍もとらされているのです。これが健康を害しているひとつの大きな要因です。
動物性蛋白質や脂肪が増えれば、大きさに限度のある胃袋に入るでんぶん質(植物性食品)は減り、これだけでも微量栄養素は減ります。そのうえ同じでんぶん質でもビタミンなどの多い穀類、野菜、果物を減らして砂糖を増やしたのでは、当然豊かな凸凹社会(カロリーなどが凸で微量栄養素が凹ですが、過栄養と低栄養の共存する凸凹社会)になるでしょう。
食品をキレイにしすぎる
世界三大長寿地域の1つ、フンザを訪ねたアメリカ人学者は、ここの名物のアンズを出されました。学者はそれを食べた後で種は吐き出しました。すると村人は信じられないという顔で学者を見ました。
「1番いいものが入っている種を捨てるなんて信じられない!」
種は、植物が次代をつくるものだから当然栄養の豊庫になっているのです。だからここでは種を割って中味も食べます。この学者とは別の学者ですが、フンザではアンズの種を食べるのでビタミンB17は文明国人の200倍もとられています。これはガンの予防にも治療にもいいビタミンだという説を発表したほどです。
B17 とガンとの関係はともかく、フンザの村人は種も食べ、それを食べないのが文明国人です。
アンズの種を吐き出してフンザの村人に首をひねらせたアメリカ人学者みたいなことばかりしているのが先進国民です。
穀類の精白度も高め、野菜も果物も見かけを保持するために食品添加物を塗ったり、ジュースにしたり、その他、数え切れないくらいの不必要で有害なイタズラを食べものにほどこしているのです。
数え上げれば限りがないので数例を上げるに留めますが、こういうイタズラでせっせと微量栄養素を不足させるのに努力しているのが先進国です。これらはみな「一物全体食」(1つのものの全体を食べること)という昔からの貴重な教えに逆らうもので、先進国を社会にしているばかりか、食品添加物、着色剤などの「毒餌」社会にさえしているのです。
「一物全体食」とは食品を生きたままの全体として食べることで、生きた栄養、つまり生命をとり入れることを教えたものであり、現代の栄養学の立場からもその正しさが立証されている教えです。
アンズならば実も種もというのが一物全体食です。玄米を白米にすればどれだけ重要な栄養成分が減ってしまうかということがすぐわかります。
これは何も米の場合に限らないのです。セレニウム、亜鉛、繊維などといったものも3分の1、5分の1あるいはゼロになってしまいます。スーパーで売っているじゃがいものように、ゆでて冷凍したのだとすぐ料理できて便利です。
しかし、これはじゃがいもを自分で切って味噌汁に入れるのと比べればはるかに栄養的な価値は低くなります。捨てられたゆで汁と一緒に大量の栄養成分が捨てられているからです。
高血圧予防に、じゃがいもをゆでてゆで汁を飲むだけでも効果が高いという学者がいますが、これはじゃがいもに含まれるカリウムが血圧を下げるからです。
降圧剤の前にカリウムをしっかり摂る 薬の前にまだやれることがある
じゃがいも中の豊富な高血圧予防成分であるカリウムが半分は流れ出るので、ゆで汁だけでも十分だというのです。これを逆に読めば、便利なスーパーの半調理品の栄養価の低さがわかります。しかも、問題はカリウムだけでなくその他のビタミン、ミネラルにしても同様です。
スウェーデンの有名な病院では、入院患者に野菜スープを必ず飲ませます。これもゆで汁だけなのですが、その中の栄養成分が病気回復に大いに効果を発揮するからです。
現代人はふすま味噌の知恵を忘れてしまった
味噌汁とじゃがいもの話ですが、いまではダシも煮干しでなく化学調味料という家庭がずい分増えました。煮干しなら、ダシがらはたとえ捨てたにしても、化学調味料とは栄養的に大違いなのにです。
ダシをしっかりとった味噌汁は、日本人なら感嘆の声さえあげることも珍しくありません。そして味噌が長寿村桐原産のふすま味噌なら間違いありません。
ふすま味噌とは、小麦の製粉かすのふすまを原料にしたものです。かつての桐原では、小麦は精白してもそのかすのふすまはこうして活用していました。
これなら小麦の「一物全体食」になります。米や小麦を精白すれば大事な栄養素がなくなりますがその代わり、かすのほうにはいいものが沢山入っていることになります。このふすま味噌に関して実に何ともばかばかしい話に思います。
いつの間にか「白くてきれい」でないと買わない消費者の噂好に合わせるために栄養たっぷりの部分が捨てられてしまっているのです。これでは大豆も形ばかりは「一物全体食」でも本当はそうでなくなっているということでもあります。
これはどう見ても会社の罪ではない。ばかで狂った消費者の噂好がもとになっているのです。アンズの種を吐き出したり、白くてきれいな食品を好むのが先進国民的な感覚であり、それはじゃがいもや味噌に限らず全てのものに対してこのようになってしまっているのです。
そしてその結果はそういう食品を世間にはびこらせ、微量栄養素不足を招き、消費者は自分で自分の健康レベルを低下させてしまっているのです。
白くてきれいなものがお好きな「一物部分食」の反対の例を2つほど紹介します。桐原の有名な料理の1つに「せいだのたまじ」という皮つきのじゃがいもの味噌いためがあります。「一物全体食」の見本みたいな料理です。
ふすま味噌が小麦の「一物全体食」なら皮つきのじゃがいもも同様です。皮つきのじゃがいもだと皮をむく場合に比べ、たとえば糖尿病予防のうえで注目されるクロムといったミネラルもたっぶり含まれています。
魚の中の脂肪成分などが動脈硬化を防ぐのが発見されたその最初のきっかけは、エスキモーの調査からでした。原住地のエスキモーには心臓病がないのにノルウェーに移住すると心臓病が増えます。理由を調べてみてわかったのは、原住地では魚の腹わたも食べているのに、移住して文明国風になったエスキモーは腹わたを捨てる部分食になっていたのです。
近藤正二博士はこのずっと以前に日本各地の調査から、魚の腹わたも食べる一物全体食の食習慣の土地のほうがはるかに健康だという事実を指摘していました。「白くてきれいなもの」食べものばかりを好む現代風の人々が捨てている部分こそ微量栄養素の宝庫なのです。
これに対し、国民栄養調査でも調理済み食品の利用頻度の高い家庭ほどビタミンなどの不足が目立つと指摘しているのです。
体内の ビタミン 、ミネラル を食い荒らす要因の増加
食事からとる微量栄養素が少なくなっている時代に体内でこれらの栄養素が食い荒らされたり、何らかの理由によって体から追い出されたりしているとすれば、結果がどうなるかは火を見るより明かです。
たとえば、ごく簡単な話で大気汚染が問題になるような先進国では汚れた空気だけによってもそうなっています。
地方から東京などの大都会に出た人は、東京では鼻毛の伸びが速いという。体の防衛反応のひとつですが、鼻毛の伸びが速いような環境ではビタミンA がかなり食い荒らされています。
ビタミンA は呼吸器官の組織の細胞を守ったりする効果のとくに高いものだからで、肺ガン予防の効果がよく指摘されるのもこういうビタミンA の働きのためです。
タバコで ビタミンC が減るのは常識ですが、 ビタミンA も同じように減るのはタバコが個人レベルの大気(小気?)汚染だからです。
PCB 、DDT といった生体異物で体内のビタミン類などが食い荒らされる様子を詳しく聞くチャンスがありました。しかし、これは何もPCB 、DDTなどに限らずどんな生体異物だってそれは体にとっての異物であるだけに、それとの戦いのために、ビタミンや有用なミネラル類は食い荒らされてしまうのです。
そしてそういう生体異物が増加しているのも先進国です。生体異物(薬剤)が体内のビタミン類を減らす様子は以下のとおりです。
栄養の吸収を妨げる薬
- 制酸剤
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- カルシウム
- 鉄
- リン
- 抗生物質
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- ビタミンB12
- 葉酸
- ビタミンK
- マグネシウム
- 抗凝固剤
- ビタミンK
- アスピリン(解熱鎮痛剤)
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- ビタミンC
- 葉酸
- 睡眠剤・鎮静剤
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- ビタミンC
- カルシウム
- ビタミンD
- 痛風治療剤
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- ビタミンB12
- カリウム
- 利尿剤
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- ビタミンB
- ビタミンC
- カルシウム
- マグネシウム
- 亜鉛
- ステロイド剤
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- ビタミンC
- ビタミンD
- カリウム
- ミネラル油
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- ビタミンA
- ビタミンD
- ビタミンK
- ビタミンE
私たちは、薬の他にも食品添加物、汚染された大気や土壌の中の公害物質などさまざまな原因によって体内のビタミンやミネラルを食い荒らされています。
また、カルシウムの敵リンのように、本来は生体異物でなく体に必要なものでありながらも食品添加物の中に過剰に含まれているために、他のミネラルとのバランスを崩してカルシウムの敵になっでいるものもあります。
さらに過剰なリンはカルシウムだけでなく、鉄分なども体から追い出す鉄分の敵にもなっているのです。
こういう鉄分不足は貧血の他にも疲れやすさ、だるさ、頭痛、めまい、食欲不振などなど多くの半健康人症状を引き起こします。
しかし、その一方で環境汚染物質の鉛とか食器などから入るアルミニウムの害も現代では無視できません。これらが体に入ると鉄分不足の半健康人症状の他に、ひどくなれば精神症状も起こすことが知られています。
こうした害のある物質は定期的に体外に排泄する必要があります。
体にたまる毒素ってなんだろう?
鉛やアルミニウムによる半健康人症状なんて初耳で信じられないという方もいるかもしれまえせんが、そういう人にはつぎの指摘でわかるはずです。
「鉛中毒の初期症状はきわめてかすかで、主観的なもので、目立った特徴を示すものではない」「人類が長い間使用していて有害でないことが立証されている調理器具や食器は、土器と鉄器だけです。
20世紀の新顔の金属アルミニウムの鍋などは使うべきでない」どの金属の害にせよ「目立った特徴」を示さないので「主観的なもの」として見逃されているだけなのだというわけです。
ミネラルは体の中では協力関係や敵対関係にあるもので、鉛やアルミニウムなどが体に入るとそれを追い出すために他のミネラルが必要になります。だからそういうミネラルの必要度はそうでない場合より高まり、その分だけ不足をきたすということになります。
現代ではさまざまな生体異物や生体異物まがいのものが体内でビタミンやミネラルを食い荒らしたり、その必要度を高めているのだと知る必要があります。ごくわかりやすい例です。
京大の実験だといまの水道の水で飯をたくとビタミンB1などは3分の1にも減少してしまいます。水源の汚れた分だけ余分に薬品を入れて処理しないと水道水にならないためです。
ということは現代の水道の水は、体内でも似たようなことを起こしているのです。食品添加物の動物実験では、実験動物の栄養状態がどういう影響を受けるかといったことは検査対象外です。このことはたとえばビタミンCに限って考えてみても首をひねらざるを得ないことがわかります。
ビタミンCを多く含む食品 はこちら
ビタミンC を体内でつくれないのは人間その他ごく少数の動物だけです。そこでCをつくれるネズミで実験し、体内のビタミンCが減らなかったとしてもそれはそのまま人間で同じようにいくとは限らないのです。
ネズミは必要ならビタミンCを自分でつくっているからです。
しかも、こういう種類の動物実験ではそのことさえも検査対象外です。そこでわれわれは動物ではやれない実験を自分の体でやらされているということになります。その人体実験の結果がどうなっているかはいままで述べたことから推測がつきます。なにしろ体に入る相手は生体異物、あるいはそれまがいのものなのだからです。
4.食品そのものを劣化させる現代の農業
日本も最近は有機農業にある程度肩入れを始めています。アメリカ議会の農業委員会は、20年ほど前に世界の農場カリフォルニア州に委員会そのものが出張して出張公聴会を開きました。この公聴会はアメリカの有機農業への動きを加速させるきっかけになったものです。
この公聴会の議事録や付属資料には重要なことが記録されています。2つだけもっとも重要な指摘を挙げればつぎの2点でした。
- 化学肥料と農薬という2本柱で化学的農業を続けてきたアメリカの農地は、土壌の劣化がいまや極限に達した
- その結果、いまでは化学肥料や農薬を余計に投入すると逆に生産量が低下する局面に至っている
この状況は日本でも同じであることを、いまでは多くの専門家が指摘しています。病人の体がまだ自然な体力を持っているうちは、薬を与えると病気は治らないまでも表面の症状だけはごまかすことができます。しかし体自体が薬でだめになった後では、薬を与えればショック死さえしかねないのです。
つまりこれとそっくりな状況に土壌のほうがなってしまったということです。土壌という名の人体は、化学肥料と農薬で地力という体力そのものを失ったということを指摘したのがこの議事録の内容でした。
これではイヤでも有機農業に転換せざるを得ないでしょう。ではどのように土壌は地力、人間でいえば体力を失い、収穫も上がらなくなったのでしょうか。
化学肥料と農薬で土壌中の大切なミネラルがみな流出してしまいました。また土壌中の有機質もなくなりました。表層土が年々流出していくのも有機質を失って土壌に粘着力がなくなったためです。
作物は土壌中の養分を吸って育つものである。だからこのようにやせた土壌では、たとえ形は同じ作物ができても重要な栄養分を失ったやせた作物にしかなりません。そしてそれを食べる人体も…弱体化。ということになるのです。
フンザでは川原の土を山に運び上げて畑をつくり、畑のミネラルを豊富にします。これとちょうど反対なことをしてきたのが化学肥料、農薬を二本柱とする化学農業でした。
「身土不二」という古い言葉があります。土と人体は結局は1つのものだという意味で、いまのアメリカの指摘とフンザの村人の知恵を比べてみれば誰でもその意味が痛いほどわかります。
化学式農業ではまともな作物はできない
化学肥料と農薬による農業の結果、いま日本中の畑でリンやカリは過剰な所が多く、逆にマンガン、鉄、亜鉛といった微量ミネラルは不足になって土壌がますます劣化しています。
これは当然作物の中味にそのまま反映されてくるわけです。土壌改良した区画のほうれん草では、しなかった区画のものに比べてカルシウム、マグネシウムなどは2倍弱、亜鉛、鉄などは約1.5倍、またビタミンCは前者では34 mg(可食部100 g につき) だったのに後者では15 mgと半分以下でした。
作物の姿形は同じでも土壌次第で中味が全く違ってくることをよく示しています。こんなに土壌がミネラル不足では、その作物を食べるわれわれの体力が低下するのは当然です。土壌の中にはいい細菌も悪い細菌もいて、いい細菌は自分がつくったビタミン類やアミノ酸など多くの栄養物質を植物に供給しています。
しかし、化学肥料や農薬の農業は、悪い細菌の勢力を強めて土壌を劣化させてしまいます。悪い細菌の勢力に取り囲まれた作物では、栄養不足や病気の作物になってしまいます。アメリカが報告した化学肥料や農薬をやればやるほど収穫が低下するほど土壌が劣化してしまったという意味は、こういった意味だったのです。
これでは人間のほうもビタミン、ミネラルの不足やアンバランスで「生命の鎖」は劣化、弱体化します。
劣化した食べものでは病気も治せない
アフリカの聖者、シュバイツァーが医学史上の大天才と激賞したゲルソンは、食事療法で結核が猛威を揮っていた時代にその99% を治し、末期ガンでも2人に1人は助けるという驚異の実績を上げていました。
しかしそのゲルソンも亡くなる1年前の1958八年に書いた大著「あるガン療法、50人の治癒例」(邦訳は今村光一訳「ガン食事療法全書」の中でこう嘆いていました。
「私の療法も最近効果が上がりにくくなった。これは、食物の質の低下のためである」.ゲルゾンのガン療法では、大量の野菜や果物のジュースをとることが大事なポイントなっていました。ゲルソンはこの療法を30年継続しました。しかしその末期の1950年代になると農業が化学農業(化学肥料や農薬をつかう農業)に代わりました。
ゲルソンは農業の変質で食物の中の徹量の成分(ミネラルなど)が低下したので、自分の療法の効果が低下してきたといったのです。
また天才ゲルソンは40年以上も前に今日の事態をすでに正確に予測していたのです。だから彼の大著はガン治療の本なのに、農業書かと思うほど農業の問題に多くのページが割かれています。
そして今後は農業の化学化がもっと進めば自分の療法はもっと効果が上がらなくなるだろうと危惧していたのです。彼は作物が微量栄養素の観点から見て年ごとに貧弱なものになっていくといったのですが、事態は不幸にして彼の予測どおりとなってしまいました。
また彼はいまの本でこうも断言しました。「肺ガンなんてかつてはごく珍しい病気だったのに近頃は普通の病気になった。今後はもっと増加していくだろう」
これも彼の予言どおりです。しかもこれは肺ガンに限らなかったのは現在のガン患者数を見ればわかります。肺ガンのついでに「身土不二」のごく簡単な例を1つだけ紹介します。
セレニウムというミネラルのガン予防効果が注目されるきっかけになったのは、土壌中にセレニウムの多い土地ではガンが少ないというアメリカや中国での調査からでした。
中国の調査では、セレニウムの豊富な土地では少ない土地より肺ガンにかかる率は8分の1の低さでした。先進国での肺ガンの急増は、化学農業が土壌中のセレニウムを食い荒らしたり流出させたことだけが原因とはいえないにしても、それが有力な原因の1つであったことに間違いありません。
有機農法、無農薬の野菜を自給したり自分で釣った魚を食ったりして原始人的な生活をしてみると、スーパーの野菜などまずくて食べることができません。ゲルソン流にいえば、ガンを治す生命力も現代の作物は失っているからです。
化学肥料や農薬をいくら使っても「生命の育たない」土地もいまは多くなっています。こういう土地では作物はできません。
だから私たちがが食べているのは、やっと収穫の上がる、生命力の弱くなった土地の作物なのだということです。日本の食養医学の大家、故・日野厚博士(当時、東京、松井病院食養内科医長)も「手こずる患者が増えてきた」とゲルソンと同じようなことを口にしていました。
手こずる患者とは、昔と同じ療法をやってもなかなか快方に向かわない患者ということで、その原因はやはり食物の質的劣化のせいだろうということです。食事の改善で病気を治す食養医学のプロもお手上げになるような時代になっているのは困りものです。
潜在的欠乏症を大問題としたビタミン学会のシンポジウム
日本ビタミン学会では、わざわざシンポジウムを設けてビタミンの潜在的欠乏の問題を採り上げたことがあります。著名な研究者たちがビタミンB類、C 、E などの潜在的欠乏を問題提起しました。
ノーベル賞級といわれる過酸化脂質の発見は世界的に有名です。いまでは世界中の学者が過酸化脂質に注目するようになっているのも、もとはといえばこの発見によるものです。
博士はシンポジウムでは、体内で過酸化脂質のできるのを防ぐビタミンB2のことを主に採り上げましたが、B2は、少し大げさにいえば、今や大部分の人が潜在的欠乏状態です。
要するにわれわれはB2の潜在的欠乏ゆえにつくらなくてもいい過酸化脂質を体内で余計につくり、それによって健康レベルも低下させたり病気になったりしているということになります。
過酸化脂質は老化の元凶物質といわれるだけでなく、ガン、心臓病その他もろもろの病気の背後原因にもなっているとされる悪役の物質だからです。
しかし、ビタミンCもEもまたセレニウムも過酸化脂質の生成を防ぐ効果はわかっています。だからわれわれは現在では多くのビタミン、ミネラルの欠乏やそのアンバランスからつくらなくてもいいはずの過酸化脂質をつくり出しているということになるのです。
コメント
[…] ミネラルが不足する弊害についてはこちらに詳しい説明があります。 ビタミン・ミネラル不足がおきる理由 | ビタミン Q & A […]
[…] しかし、この指摘は50年も前のものでなく1981年2月号の経済大国日本の『精神医学』という専門誌に掲載された論文のものです。ビタミンの潜在的欠乏症時代の現代は、人によってはこんな顕在的欠乏症も起こすほどになっているということです。 ビタミン・ミネラル不足がおきる理由 https://www.vitamin-qa.info/2019/12/23/post-691/ […]
[…] ビタミン・ミネラル不足がおきる理由 […]
[…] 食物繊維、ミネラル、ビタミンの極めて少ない食事 ビタミン・ミネラル不足がおきる理由 […]